映画:犬と猫と人間と
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●ストーリー(ネタバレあり)
稲葉恵子さんという女性がこの映画の監督・飯田基晴を訪ねた。彼女は猫おばあちゃんと呼ばれるおばあちゃん。彼女は監督に「大人も子供も、動物を大切に思ってもらえるような映画を作ってほしい。」と言う。
引き受けた監督だが、まだ何をどう撮っていいのかわからない。調べてみると日本はペット大国だがペット天国ではない事実が浮かび上がってくる。ペットを家族の一員としてかわいがる家族も多い中、無責任な飼い主、営利を優先させる産業。その結果日本全国で1日当たり1000匹近くの犬猫が処分されている。
監督はとりあえず動物愛護センターを訪れる。しかし取材拒否。ようやく千葉県の施設で取材を受けてくれる動物愛護センターを見つけた。そこには多くの犬や猫がいた。犬は保護してから1週間飼い主が現れるのを待つが、猫は数が多いためその日のうちに処分される。つまり殺されるのだ。人を警戒してなつかない犬ばかりなのかと思えば、子犬や子猫も多い。まだ目を開けられないほどの赤ん坊もいる。大半の行政は鎮静器と呼ばれる容器に入れ、炭酸ガスで殺される。
次に飯田監督は民間の動物愛護協会を訪れる。神奈川県動物愛護協会ではやんちゃな“しろえもん”、人間から虐待を受けたのか人を見ると噛みつく“がじろう”などと出会う。しろえもんは一度もらわれていったが、やんちゃすぎて手に負えないと戻ってきた経緯がある。行儀よくしないともらい手がない。ボランティアでしつけを手伝ってくれるトレーナーも出入りしている。最初に現れたトレーナーは、言うことを聞かないと首を絞める首輪を使ってしつける。首輪をつけている間はおとなしいしろえもんだが、首輪をはずすといつものしろえもんにもどってしまう。
監督は次に野良猫の避妊去勢手術を続ける獣医たちを訪ねる。雄は簡単だ。睾丸をとってしまうだけ。しかしメスは違う。中には翌日だったら生まれていただろうくらい成長した赤ん坊を宿した猫もいる。獣医が至急を取り出すと赤ん坊はまだ動いていて温かい。思わず涙をぬぐう飯田監督。
多摩川沿いの野良猫たちを長年写真に収めるカメラマン・小西修。彼は多摩川に捨てられた猫を飼っているホームレスとも知り合いだ。奥さんの美智子さんは19年間多摩川のノラネコの世話を続ける。この日も捨てられたばかりの猫を見つける。しかもその猫は風邪をひいているようだった。中には世話をする人がいるからここなら捨てて良いだろうと捨てる人もいるという。でもそれは逆。捨てる人がいるから世話をしなければいけないと。
山梨県にはかつて「犬捨て山」と騒がれた場所があるという。地主の人が犬を集めたはいいが、世話をするわけでもなく亡くなってしまったという。そこで今でも住み込んで犬の世話を続ける年配の男性がいた。電気を引くお金もない。町の肉屋で分けてもらった内臓などをたき火で煮て、ドッグフードをまぜて与える。NPOなど民間団体は信用できないという。以前マスコミに取り上げられた時は援助などを受けたが、すぐに熱は冷め、その後音沙汰もない。そこには、彼を助ける学生グループなどもいた。
徳島では崖に取り残された犬を1日かけて捕獲した「崖っぷち犬」がいた。その事が報道された直後は、崖っぷち犬を飼いたいという投書が全国から送られてきたという。ちょうどその頃、徳島の動物愛護センターには崖っぷち犬の兄弟と思われる犬も保護されていた。
動物愛護センターでは定期的に里親になってくれる人を募集する会が行われる。この日はマスコミも多い。崖っぷち犬の取材だ。崖っぷち犬に申し込んだ男性はマスコミから質問攻め。結局主婦がもらっていったが、その兄弟と思われる犬に里親はつかなかった。訪れてくるのは犬や猫を欲しいと言う人ばかりではない。数名の小学生がいた。川で捨てられた犬たちを飼ってくれる人を探すためだ。彼女たちはお年玉をつぎ込んで世話をしているという。
飯田監督はイギリスに行くことがあった。イギリスではペットショップに犬や猫がいない。ブリーダーから直接買うか、捨てられた犬をもらうのが一般的だからだ。ノラネコもいない。中にはノラネコ(wild cat)という言葉を知らない人もいた。イギリスではノラネコを見つけると通報してすぐに連れて行かれてしまうと言う。そもそも猫を捨てる人がいないのだ。
取材で出会ったマルコ・ブルーノさんは「日本の犬だけには生まれたくない」という。
映画はとうとう完成した。しかし監督には心残りなことがある。稲葉恵子さんは生きている間に映画を完成させて欲しいと言うが、その完成を待たずに他界してしまったのだ。
小さい命の切なさと、不幸な命を生み出す人間のエゴを浮き彫りにしつつも、カメラは、多くの犬猫たちと、それを懸命に救おうとする人間たちの姿を映し続ける―。
●感想、思ったこと(ネタバレあり)
まず驚いたのはフレームレート。通常の映画のフレームレートは24fps。つまり1秒間に24枚の絵を表示して動画とするんですが、恐らくこの作品は60fps。映像のなめらかさにビックリです。
そして次に驚いたのは立ち見のお客さんが多いこと。もともとこれを観たユーロスペースの1番シアターは92席と少ないのですが、立ち見が多い。
映画の感想としてはこんなの映画じゃない。ただのドキュメンタリーです。映画としてみられない以上観て良かった度は下げようかと思ったのですが、あくまでも観て良かったかどうかの判断基準であり、それが映画かどうかの明言はしていないことに気がつき、結局満点の5点をつけました。
監督自身が述べているように何を撮ってよいのかわからないまま撮影に挑んだようで、作品としても迷走している感じが読み取れます。でも、笑いあり、涙ありの傑作だと思います。
崖っぷち犬の徳島の動物愛護センターのインタビューの時、監督はセンターの所長に「あなたも獣医ですよね。動物を助けたくて獣医になったんですよね。」というような内容の質問するんです。所長は当たり障りのない回答をするんですが、その裏で「当たり前です。動物を殺したくて獣医になる人がどこにいるんですか!」と怒りの声が聞こえた気がします。
今まで動物の映画というと、犬と私の10の約束のようにペットが死んでしまう話、HACHIのように人間が死んでしまう映画しかなかったですが、本作は殺されてしまう犬や猫の社会派ドキュメンタリー映画。反響の大きさに東京ではユーロスペースだけの上映予定でしたが、吉祥寺の吉祥寺バウスシアターでも上映されることが決定。その他にも横浜、川崎をはじめ拡大上映が決まっているそうです。社会派ドキュメンタリー映画なので万人受けするわけではありませんが、機会があればぜひ観てもらいたいと思います。
上映が終了すると、最終日と言うこともあり、急遽飯田監督が駆けつけてくれました。飯田監督のスピーチを聞き、帰りにプログラムを買い、帰ろうとすると目の前に飯田監督が。どことなく寂しげでした。映画のヒットは嬉しいのだと思いますが、稲葉恵子さんにこの映画を見せてあげられなかったこと、そして取材を通して知りえたことを思い出しているんだなぁ。そんな感じです。
「笑いあり、涙ありのすばらしい映画でした。」と感想を述べ、「ぜひサインをお願いします。」と言うと、「サインさせていただいてよろしいんですか?」ととても謙虚。「ぜひお願いします。」と答えると、プログラムの飯田監督のことが書かれているページを開いてサインしてくださいました。それが右上の写真なんですが、サインの仕方もとても謙虚でした。
全国で拡大ロードショーですが、もしお近くの映画館で上映されていたらぜひ観てみてください。goo映画でも取り上げられていない作品ですが、オススメです。
なお、映画ではなく現実の世界で死に行く犬たちはこちらでも確認できます。
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この記事へのコメント
僕も観てから記事にするまで、何を書こうか迷いました。
このブログのアフィリエイト収入はいろいろな団体に寄付していますが、動物愛護団体に寄付しても映画の中で言っていたように一過性のものになってしまいますし。
結局何もできない僕らよりも、何かを残せた稲葉さんはすごいと思います。
今はあまりにも責任の重さを思いペットを飼うのをやめたのですがそれだけでは解決にならない問題ですね。
この映画でもクビを締める躾と、褒美をやる躾と2通り紹介していましたね。前者は先日観たヘレンケラーのお芝居をちょっと思い出してしまいました。お互い生き物だから、正しいという公式のようなものはないんでしょうね。
ナナはきっとnanaさんのペットで幸せだったと思いますよ。