ブックレビュー:最終便に間に合えば(林真理子)
●最終便に間に合えば OLから造花クリエーターに転進した美登里は、旅行先の札幌で7年前に別れた男と再会する。空港へ向うタクシーの中、男は昔のように美登里を誘惑してくる。帰るのは明日にすれば良いという男に対して強帰らなければいけないと言う美登里。しかし美登里もまんざらでもない。その様子を知って知らずかタクシーの運転手は最終便に間に合うように空港へと向かう。 ●エンジェルのペン OLだった浩子はとある雑誌の新人賞に小説を応募し、入選作該当無しの佳作一席になった。そのおかげで浩子が書いた小説は思いの外売れた。もともと実家暮らしの浩子はそれを機会にOLをやめてしまう。給湯室でそろったOLたちが嫌いなハイミスのオフィスラブの相手を探り当てるというその小説は実話を元にしたものだった。浩子の2作目は自分の母親をもとにしたもので、それを読んで起こった母親の元を離れ今では一人暮らしを手している。自分の人生の二大事件をすでに小説化してしまった浩子にはもうネタがない。そんな時、浩子の前に阪倉という男が現れる。 ●てるてる坊主 専業主婦の礼子と夫の邦男と娘の3人家族。邦男は最近頭が薄くなって来たことを気にして、高い養毛剤を使うようになっていた。そんな時娘の沙織は幼稚園でてるてる坊主を作ってきた。礼子はいたずら半分でそのてるてる坊主に邦男の顔を描いてみる。夜、邦男が帰ってくると沙織はそのてるてる坊主を邦男に見せる。 ●ワイン カナダに旅行しているフリーの記者である曾根は、ワイナリーを見学していた。曾根はちょっと見栄を張って1万円くらいのワインを買って、ホテルでみんなでパーティーでもしようと言い出す。45ドルのワインを購入するつもりが薄暗いキャーブの中で“1”が見えなかった。145ドルだったのだ。引くに引けない彼女は3万円するそのワインを日本に持ち帰るが、味のわかる人に味わって欲しいと誰かにプレゼントをすることにする。ワイン通の木島にとって3万円のワインなんて日常のことかも知れない。もっと有効な人物でないと・・・。曾根はあれこれと考えたあげく・・・。 ●京都まで 東京でフリーの編集者をしている久仁子は京都に向かう新幹線の中だ。仕事で知り合った高志に会いに行くのだ。京都駅で待ち合わせた二人は大原へと向かう。仕事一筋だった久仁子は高志と出会ってから京都に通うようになり、少女になっていた。そんな時、久仁子は京都に住もうと思っていると高志に打ち明ける。それ以来、高志の態度が変わっていく。 【感想】(ネタバレあります) 最近(といってもあまり小説は読まないのでかれこれ9ヶ月くらいですが)江國香織さんの2冊を読みました。江國香織さんの小説はあまり事件のない日常を綴ったもので素朴なんですが、僕には退屈なないようでした。林真理子さんの本作は短編だからと言うのもあるのでしょうが、どうなっちゃうんだろう?って思うところもあり、読んでいておもしろかったです。小説を読まない僕としては小説独特の表現というのが苦手です。でもこの作品は読みやすい。もともと男性の言語は事実を的確に伝えるように発達しているので小説独特の主観的、遠回りな表現というのが苦手なんですが、何となく林真理子さんが男性にも受けている理由がわかるような気がします。 話は変わりますが、この本、文庫版が出たのは1985年です。もう20年以上も前です。“最終便に間に合えば”では、男が美登里に今日は帰れと言うが真夜中のタクシー代を持っていない。男もタクシー代を渡せば財布は無一文。「明日の朝一番で銀行からおろせばいい」と美登里は言います。でも、確かに20年以上前ならそうかも知れないけれど、今ならコンビニに行けばお金をおろせるし、そもそもタクシーではクレジットカードや電子マネーが利用できます。財布にお金が入っていなくてもタクシーで家に帰れる時代です。 “ワイン”では、145ドルが3万円と言っていますが、現在ではその半額以下です。 “京都まで”も、携帯電話やメールがこれほど普及した今ならまた違った展開になっているかも知れません。 どの作品をとってみても時代の流れを感じます。0.2世紀も前の小説っていうのは、ある意味古典なのかもしれませんね(笑)。 内容的に見ても、“てるてる坊主”の礼子の昔のアルバイトの時の話など、おもしろかったです。 今さらというくらい前の小説ですが、古い小説ってのはいろんな意味で楽しめますね。 |
読んで良かった度:●●●●● 5点 |
- 「最終便に間に合えば」のお求めは
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で。
- 林真理子著。
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