話題の シッコ を観てきました。
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●ストーリー(ネタバレあり)
アメリカの保険充実度は37位。スロベニアの1つ上。先進諸国の中で最低ランク。
作業中過って指を2本切断してしまった男性、保険に入れなかった彼は1つの選択を迫られる。薬指をくっつけるのに12,000ドル、中指は60,000ドル。どうするか?ロマンティックな彼は薬指を選んだ。
アメリカは国が運営する健康保険がない。国民は民間の保険にはいるしかない。しかし糖尿などの病歴があったりすると入れない。アメリカ人の6人に1人は保険に入っていない(入れない)無保険者だ。
民間の保険会社で働く女性は言う。目の前で保険の申し込みをしにきた夫婦は、これで保険に入れると大喜びで申請をしている。しかし彼女は書類を見ただけではこれは許可が下りないとわかる。2週間後には保険会社からこの夫婦に却下の書類が届くだろう。だが喜んでいる夫婦の前でそんなことは言えない。そんな仕事に嫌気のさした彼女は保険会社を辞めた。
この映画はこうして保険に入れなかった人たちの映画ではなく、保険に入れている人たちの映画だ。
アメリカでは保険に入っていても保険金が支払われないことがある(と言うか多い)。交通事故で意識を失い救急車で運ばれた女性は、保険会社に救急車を頼む事前申請をしていないという理由で給付金が下りなかった。ガンになった女性はあなたの年齢でガンになるはずがないと、これも給付金が下りなかった。言葉を覚える大事な時期の赤ちゃん、その子は両耳が聞こえなくなったが、片方の手術しか保険金が下りなかった。もう片一方は実験的治療だというのだ。親はマイケル・ムーアが保険に関する映画を作っているので、その始終を報告すると保険会社に訴えると、手の裏を返したように両耳分の手術費用が下りた。発作を起こした赤ちゃんを病院に連れて行くと、保険会社の系列の病院でないと保険金が下りないと言われ、その系列の病院に向かった。しかしその病院に着いたとほぼ同じ頃、赤ちゃんは死んでしまった。ある夫婦は、妻がガンに、夫も病気をしてしまった。幸いふたりとも完治したが、その治療費に全財産を売り払ってしまった。頼れるのは子供だけ。ところがその子供は親を自分の家に引き取ることを面白く思わない。母親は「50をすぎた私たちが30になったあなたを頼るなんて、これほど情けないことはない。でもそうしないと生きていけないの。」と泣きながら懇願する。夫婦は息子の家でトイレ掃除などお手伝いのような仕事をし、子供は仕事で中東に行ってしまう。このガンにこの治療は効果がないと保険が下りなかったために全財産を失い、家族もバラバラになってしまったのだ。
保険会社に雇われている医師は、保険給付の申請を却下して保険金を払わないと、その額に応じてボーナスが支払われるシステムなのだ。そのシステムが功を奏し、保険会社の利益は鰻登り、株価も数倍にふくれあがった。さらに製薬会社への天下りなども多い。そのシステムを守るため、国会議員も金をもらっており、その額も紹介している。アメリカの保険は国民のためでなく、保険会社、製薬会社、議員たちのためのものなのだ。そこでマイケル・ムーアは外国に目を向ける。ある女性は保険会社に実験的な治療だと言われ保険金が下りなかった。彼女はカナダ人の友人をたずねる。アメリカと川1本隔てただけのカナダでは治療費の7割を国が負担してくれる。そのため彼女はその友人の内縁の妻と言うことにして治療を受けたのだ。
取材のためにカナダに住む親戚をアメリカに呼んだ時、取材に行くのは良いがその前に寄るところがあると保険に加入しに行った。たった数時間アメリカに行くだけなのに。以前知り合いが数日間アメリカに行った時に頭を殴られ、その治療費を聞いて、アメリカには保険に加入しないといけないと思ったという。保険会社の係の人も、それが当然という顔をしている。
アメリカからイギリスに引っ越した人も紹介している。イギリスではNHS(国民保健サービス)という制度があり、支払い能力に関係なく、医師が判断して必要な処置を受けることができる。アメリカのように医師が治療を拒めば処分を受けなければならない。薬も一定額を払えば必要な薬をもらうことができる。にわかに信じられないマイケル・ムーアは、本当に無料なのか?とたずねて歩く、看護師にも患者にも笑われる。そんな質問されたのは初めてなのでと・・・。ところがマイケル・ムーアは病院内で「会計係」という看板を見つけ、治療費はここで払うんですね?とたずねる。するとまた笑われ、ここでは患者が病院に来るまでに使った交通費をお支払いするんですと言われる。会計係はお金を払うところではなく、もらうところなのだ。
フランスではフランス人でなくても診察料は20ユーロ程度。時間外でも熱が出たと電話すれば医者が飛んでくる。出産後は週に2回無料のハウスキーパーが来てくれる。掃除も洗濯も料理だって作ってくれる。
アメリカにも1カ所だけ、無料で最高の医療を受けられるところがある。グアンタナモ基地だ。ここには9・11の容疑者やビンラディンの仲間などが収容されている基地だ。9・11でボランティアで活動していた人たちの中にはそれが原因で病気になった人も多い。ところが彼らは市の職員でないという理由で政府や市からの保護は受けられないでいる。人道的支援をしたのに人道的支援を受けられない人たちだ。マイケル・ムーアは彼らをボートに乗せてグアンタナモ基地に向かい、治療を受けさせてくれと言う。ところがそんなことがまかり通るわけもなく、一行はキューバに向かう。
かつてのアメリカの敵キューバは一行を温かく迎えてくれた。キューバでは1ブロックに1件は病院と薬局があり、社会主義ということもあり、無料で治療が受けられる。ラテンアメリカで一番の医療サービスと言われている。一行の一人がいつもアメリカで120ドルで買っている薬を薬剤師に見せるとキューバでは5セントで売っていた。彼女は鞄一杯買って帰りたいと涙を流す。一行はキューバで治療を受け帰国する。
●感想、思ったこと(ネタバレあり)
テレビや雑誌でも大々的に取り上げられていただけにかなり期待してしまいます。観ていても前半は結構面白かったのですが、海外に行くあたりからなんか飽きてきてしまった。
国民皆保険がないというのは別に最近なくなったわけではなく昔からだし、アメリカは保険金があまり降りないというのも以前から言われていたことだし。だから外資系の保険会社が日本に来た時はホント心配でした。何せ僕が入っていた保険会社が潰れてしまい、その後釜に外資系が居座ってしまったのですから。最近までは遺伝子診断関連の仕事をしていたので、アメリカや他の国の医療についてもほんの少しは知っていたので、正直な僕の感想は何で今さら?という感じです。確かにあそこまでひどいものとは知りませんでしたが。
中盤ではマイケル・ムーアの海外での取材がわざとらしくて。「治療費はかからないんですか?」って、かからないの知っているから取材に行ったんでしょ。それもわざとらしく何度も何度も。ドキュメンタリーで字幕が多いので、同じことを何度も読ませられるとだんだん腹立たしくなってくる。話の展開も自然ではなくてわざとらしい。ドキュメンタリーと言うよりは、展開が某バラエティー番組みたい。
グアンタナモまで行く行動力はすごいなぁと思ったけど、結局行っただけかよ。キューバで治療ができて良かったとは思うけど、保険会社が患者の生死を選んでいると言っているけど、マイケル・ムーアもキューバで治療できる人たちを選んでいるじゃないですか。
僕は見逃してしまったのですが、保険充実度はアメリカは37位ですが、キューバは39位らしいのです。本作品ではキューバが天国のような紹介をしていますが、もしそうだとしたら各国の良いところだけを紹介しているってことになります。
ただ1つ良いと思った言葉は「(フランスでは)政府が国民を恐れているからだ。アメリカは国民が政府を恐れている」お祭りの日を平日にしようとしたらフランスでは大々的にデモが行われる。日本では国民は政府を恐れてはいないけど無関心。政府は国民を利用してばっかり。ある意味アメリカよりも最悪かも。もし社会保険庁の不祥事がフランスで起こっていたらどうなることか・・・。日本ではそのネタはもう結構下火になってきてしまっているし、若い人は「年金なんて僕らが年とったってもらえないよね、きっと」なんて思っている人が多い。本来なら怒るべきところだよね。定率減税廃止だって国の財政厳しいからしょうがないよねっていう雰囲気があるし、そうしたのは政府でしょって怒るべきところのはずなのに。
国民が無関心だからこそ社会保険庁のような不正がまかり通っている。こんなのが続けばホントに日本も医療に限らずどんどん悪くなっていく一方だと思います。
話は変わりますが、厚生労働省は、製薬関連の研究費を増やして世界に通用する新薬の開発を目指しています。一方でジェネリック薬品(特許が切れて開発したメーカー以外も自由に作れるようになり、安く販売できる薬品)の比率を高めて医療費を削減するのを目指しているそうです。ジェネリック薬品を作るような会社は自社での新薬の研究開発ができないような小さい会社です。そんな会社の販売量が増えれば自社で新薬の開発ができる大手製薬メーカーの売り上げが落ちて、新薬の開発力が落ちます。
僕は病院に行くとジェネリック薬品は処方しないでくださいと言います。普通はテレビ広告の影響もあってジェネリック薬品にして欲しいという患者が多いそうですが、そんな中反対のことを言うと理由を聞かれます。「自社で新薬を開発できないような会社に利益を渡していたら日本の新薬開発力は間違いなく落ちます。」と答えると、医者は「そうなんだよ。厚労省の政策はおかしい。」と医者も言っているほどです。
持病でず~~~っと薬を使用しないといけないような人は負担が大変でしょうから、そう言う人にはジェネリック薬品を使うのは良いと思いますが、突発的な病気などで使用する薬はジェネリック薬品は使わないようにしませんか?
その他にも医療費削減をめざし、介護保険は民間に丸投げ。日本はこの先どうなっていくのか。。。この映画よりもスリリングです。
観て良かった度:●●○○○ |
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この記事へのコメント
なるほど、そういう問題があるのですね~。
安い薬が手に入るのはいいけれど、
その功罪について
ちゃんと解説してくれるメディアがないと、
私のような素人には何のことやら分かりませんデス。
無関心が一番危ないですね。
なぜかこちらからのTBがエラーになってしまうので、こちらで失礼。
http://www.fr-dr.com/paris/archives/2007/07/03005854.php
朝から晩まで外資系保険会社のCMばかりでウンザリします。
CMの中で、甘い言葉でお年寄りや主婦やドライバーに話しかけているタレントが詐欺師に見えてきて、すっかり出演タレントまでキライになってしまいました。
誘うだけ誘っておいて、アメリカ同様、そのうち支払い拒否騒動が起こるのではないかと。他人事ながら。
ジェネリックは、どこかの医療関係の掲示板で「ジェネリック処方するような医者は。。。」的な批判的な表現がされてました。「勇気を出して~」のCMにも驚いたけれど、その掲示板の真意もわからず。
もちろん薬価が下がることは患者本人にとっても保険をまかなっている加入者全員にとっても良いことです。でも、例えば新薬研究費の一部を税金を減免するなど、新薬を開発している企業のことも考えないと、ますます新薬は欧米の企業に開発されてしまい、世界競争力は落ちてしまうと思います。
一般人向けにはジェネリック薬品は安いことだけを宣伝しているので、その背景も考えるのは難しいですね。
●7ntrdblさん、コメントありがとうございます。
TBの件すみません。。。m(_ _)m
最近はホント外資系の保険会社が多いです。日本での顔と本国での顔はどういう違いがあるのか調べてみるのもおもしろ界もしれませんね。
ジェネリック薬品を処方するのがいけないとは思いません。ずーっと遣い続けなければいけないような薬は患者本人にも保険をまかなっている加入者全員にも負担ですから。