ブックレビュー「かぐやひめの遺伝子」



 最近は出張が減り、電車に乗る時間が減ったため本を読む時間が少なくなってきました。気になる本はいっぱいあるのに読む時間が・・・。今回は、遺伝子組み換え作物をテーマにしたフィクションかぐやひめの遺伝子を読みました。


●ストーリー(ネタバレあり)

 農業試験場の研究員・松井功介は、妻と娘の3人家族。娘は色素性乾皮症(XP)という不治の病に冒されていた。この病気は紫外線にあたり、傷ついたDNAを修復する酵素を持たない。このため日光に当たると水ぶくれを起こし、最悪の場合死に至る。3歳という遊び盛りのヒカルが遊びに出られるのは夜中だけ。それも日焼け止めクリームを塗りたくってだ。昼間で歩く場合は宇宙服のような防護スーツを着なくてはならない。
 さらに悪いことに、日本人の多くはこの病気に冒されると、中枢神経障害や末梢神経障害が発症し、20歳まで生き残れるのは2/3だけだ。
 松井はそんなヒカルと妻を愛しながらも、研究に没頭していた。彼が研究しているのは遺伝子組み換えで作ったコメ。ササニシキやコシヒカリよりも美味しく、害虫にも強い。そして収穫量は従来のコメの約2倍というコメ。さらに、食べただけで血糖値を減らす作用や抗アレルギー効果もある。つまりお米を食べるだけで糖尿病の発症を送らせたり、花粉症にかかりにくくする作用もあるというコメ。そんなコメは消費者にも農家にも喜ばれるはずだ。
 効果も確認し、味も文句ない。そして強い苗もできていた。しかしFDAの認可だけがグレーゾーン。これに合格しなくては生産に踏み切れない。全てのデータをコンピュータに入力するがどうしてもパスできないでいた。
 そんなとき、義母の不注意でヒカルが太陽の下に出てしまった。ほんの数分の出来事である。しかしヒカルの皮膚は焼けただれ、入院してしまう。妻はに功介に、遺伝子の研究しているんでしょ。お米なんかよりヒカルの病気を研究してと泣きじゃくる。
 功介は、公私ともに追い詰められていた。
 功介は、もう一度1からデータをコンピュータに入力し、計算をさせる。するとFDAの基準をクリアする結果が出た。念のため部下にも確認をさせる。結果はクリア。夢のコメが完成した。職場一同で今日は完成パーティーが催された。ところが
功介の携帯に電話がかかってきた。ヒカルの様態が急変したのだ。
 急いで病院に向かう功介。しかしヒカルは短い人生に終止符を打ってしまった。
 さらに妻は私の遺伝子の所為で松井家を汚してしまったと、離婚届を置いて出て行ってしまった。

 愛する娘と妻を失った功介は、鬱状態になってしまう。仕事を辞め引きこもりになってしまう。

 農業試験場では功介を失い、苗の生産と出荷に大忙しだった。
 いよいよかぐやひめと名付けられたこのコメの初出荷の日、担当者が扉を開けると、もあっとした熱気が中から出てきた。温度設定を10℃と40℃を間違えてしまったのだ。あわてて換気扇を回し、苗をチェックする。さすが災害に強いコメだ。びくともしていなかった。少なくとも表面上は。。。

 かぐやひめは、当然消費者からも農家からも絶賛された。美味しくって健康に良いのに、今までの米よりも安い。収穫量が2倍になれば余った土地で輸入に頼っている麦や大豆を生産できる。収穫量が上がれば大手の企業も農業に参入できる。二本の農業改革が始まった。

 かぐやひめが出荷され5年後、不審な死が増え始めた。若者も、年寄りも、女も男も、何の前触れもなく死んでしまう。共通点はない。家庭菜園をいじっていて倒れ、そのまま死んでしまう人、運転中に死んでしまう人、授業中に寝ているのかと思って授業終了後に声をかけたら死んでいた学生。心筋梗塞でも脳卒中でもない。自然に心臓が止まったとしか思えない死に方だった。

 感染症か、食べ物か、公害なのか、見当すらつかない。理由がわからない突然死が急増したことがマスコミにばれたら国民は大パニックになる。厚生労働省、農林水産省など関係省庁はそれぞれ秘密裏に原因究明に乗り出す。

 農林水産省からはかぐやひめが原因でないことを証明するように言われた。その任務を任されたのは、ようやく大学で非常勤講師として働き始めた功介だった。かぐやひめを開発した功介はかぐやひめの無実をはらす仕事につくことになった。

 功介は、気がかりがないわけでもなかった。何度やってもグレーゾーンだったFDAの検査がなぜ突然クリアしたのか。そう言えば疲れて寝てしまった横で妻がコンピュータを操作していた気がする。妻がデータを改ざんしたのか?また功介は当時の出荷を担当した矢野に会いに行き、設定温度を40℃にしてしまったことを知る。農家へのアンケートによると、試験した薬品よりも多くの量で消毒をしていた。調べれば調べるほど、かぐやひめが怪しく思えてくる。

 かぐやひめは人間が食べるだけでなく、飼料としても使われている。もしかぐやひめが犯人だとすればコメを食べるのをやめるだけではすまされない。かぐやひめで育てられた動物も、その動物を食べた人間も危険と言うことになる。
 さらに悪いことにそれがマスコミにリークしてしまった。人々は不安にかられ、パニックを引き起こし始めた。





●感想、思ったこと(ネタバレあり)

 ストーリーでも書いたように「かぐやひめ」とは遺伝子組み換えで作ったコメの品種のこと。この作品は遺伝子組み換え作物についての壮絶なストーリーを展開したフィクションの物語。遺伝子組み換え作物について中立な立場で、遺伝子組み換え作物の良いところを認め、その必要性を説いた上で、このストーリーのように安全性について疑問視することも記載している。
 遺伝子組み換え作物は賛成ですか?反対ですか?今はずいぶん下火になっちゃいましたが、一時期はかなり話題になりましたよね。害虫に強い作物が作れる、干ばつや寒さ、塩害に強い作物が作れるなどの生産者にとってメリットがある。さらにはアレルゲンとなる物質が作られるのを抑えたり、栄養を多く作らせたり、味の改善など消費者へのメリットも計り知れない。一方で安全性が100%確立されていない。個人的には食べた食べ物の遺伝子が人間に組み込まれるわけではないし、新たに加わった遺伝子によって作られるタンパク質などに毒性がなければ安全性に問題はないと思っている。遺伝子組み換えでない食べ物もたくさん食べれば毒となるし、遺伝子を組み換えて害虫に強い作物と、遺伝子組み替えないで農薬をたくさん使った作物と、どちらが安全かは正直わからない。
 もう1つが遺伝子汚染という問題。本書にも少しだけ登場しますが、花粉などが飛散して農場以外にも自然には存在しない遺伝子が拡がってしまう。
 僕的には遺伝子組み換え作物はきちんと検査さえすれば安全であると思うが、それが自然界に遺伝し汚染として拡がると人間の予想しない結果が出ても不思議ではないと思っています。
 本書では遺伝子組み換えについて本当によく調べ、そこにエンターテイメントを加えて、とてもおもしろくそしてセンセーショナルに仕上がっています。正直言うと遺伝子工学について知らないとちょっと難しいかな?という部分もありますが。(と言うか、この作者バイオのこと、理解しているのかなぁ?っていう表現が多々出てきて、バイオに詳しい人の方が読むのに苦労すると言うか違和感があると思います。)
 それに、この作者は経済についてもちょっと・・・。もし日本で50%以上のシェアで食べられているこのかぐやひめが突然死の原因だとしたら、外国人投資家は日本企業の株を売るでしょう。外国人投資家は株を売って得た円をドルにしなければならないので円安です。すると輸入に頼っているものは値上がりです。小麦も大豆も、コメ以外の食料品は値上がり、それどころかガソリンや原油も値上がりしてしまう。パン食べればいいやなんてそんな生ぬるいだけの自体には収まらないと思います。そう言った意味で、序盤から中盤は面白いのですが、ちょっと後半が拍子抜けしてしまいました。

 医療の分野、工業(バイオインダストリー)の分野では遺伝子組み換えは普通に行われています。ぜひ本書を読んで遺伝子組み換えについて、食の安全性について考えてみてはいかがでしょうか?











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