ブックレビュー:いじめの時間
そんな久しぶりにストーリーのある本ですが今回選んだのは「いじめの時間」という本です。 何でこの本を選んだか?この本を買った当時(僕の場合、本を買ってから読み始めるまでにかなり時間がかかる)、ちょうどいじめ問題と自殺のニュースが取り上げられてました。お決まりのように学校側は「いじめがあったとは思っていない」、近所の人たちは「自殺するような子には見えなかった。」そしてニュースキャスターの言うこともお決まりの文句。いじめがあって、自殺する子がいた。悲しいこと、腹立たしいことです。でも正直言って、つまらない。だって、何も変わらないんだもん。報道側も報道しっぱなしで、何かを変えようとしていないんだもん、学校(教育委員会)側だって、同じ。いじめ問題は面倒な問題であって、できれば取り上げないで欲しい、早く忘れて事なきを得たい。それが見え見え。報道がもっと動けば、学校側も変わるはずです。 いじめ関係の本は山ほどありますが、いじめとどう向き合うか、社会現象としてのいじめ、カウンセリング本、そんな本が多いなか、このいじめの時間は、フィクションではあるが7人の著者がいじめに関する小説を描いた短編集。いじめる方、いじめられる方の立場から書かれ、どの作品もいじめ問題は解決しないで終わる。どうすればいじめがなくなるのか、そんなことは一切触れていない。それどころか、いじめの善悪、是非にも触れていない。いじめる者、いじめられる者、その仲間の関わりについて触れているだけである。そこが気に入って選びました。 「亀をいじめる(大岡玲)」では、まさしく現代の学校側を反映した描写。いじめ(事件)ではなく事故として処理しようとする学校側の態度が描かれ、主人公の父親は「いじめいじめられる関係式こそ、生きる本質なのじゃないか」と語っている。それは、生まれてからすべてが思い通りになる人はいない。その怒りを自分か他人にぶつけるしかないからだそうだ。 僕の好きな作品の1つ「リターン・マッチ(湯本香樹実)」では、いじめられっ子の中学生トモユキがいじめっ子を1人1人呼び出して負けるのを覚悟で決闘する話。トモユキは自分から相手を呼び出して喧嘩をしてやられるのは自分の意志だから良い。ただいじめられるのとは違う。わけもわからずただいじめられるのはイヤだと語っている。それがきっかけでいじめっ子だった一人ケンちゃんと仲良くなる。ある時トモユキは藤岡と決闘し、こてんぱに負けてしまい、それが親にばれてしまう。トモユキは一人でいじめと闘っていたのに、その親が訳もわからずしゃしゃり出てきて、子供ががんばっているのをぶちこわしにしてしまう。それどころかその親は今や親友となったケンちゃんを訴えるとまで言う。「ケンちゃんは違う」と言うトモユキを「この意気地無し」と傘で殴る母親。それを止めようとして殺してしまうケンちゃん。 いじめられっ子にとっての敵はいじめっ子だけじゃないんですよね。心配してくれる親、これが時として精神面として最大の敵になることがある。 「空のクロール(角田光代)」では、泳げないのに入った水泳部で、同じクラスの水泳がうまい少女にいじめられ、仕返しをする話。 「かかしの旅(稲葉真弓)」では、いじめられっ子の中学生が、親や先生などに手紙を書き、その手紙を紹介している作品。かかしと呼ばれるいじめられっ子の伊藤は家出をし、そこで知り合った人の田舎に旅に出る。かかしだって旅をする。そこで野菜作りを手伝って、うまく乗り越えられたらまた帰れるような気がする。だから探さないで。と綴っている。現実からの逃避行かもしれないけど、そこで何かをし、自分に納得ができたら帰れるかもしれない。。。 (ネット上でなく)リアルな世界で僕を知っている友人もこのブログを読んでくれているので恥ずかしいのですが、僕も学生の頃はいじめられっ子だったんです。マンガ調達してこいとか、パチンコの台とっておけとか、柔道の練習台にされたりとか。。。とは言っても金を取られたり、ゴミを机に入れられたり、何人もからよってたかって殴られたり、そんなことはなかったです。でも、ある時、「いい加減にして。」とつぶやき「は?」と顔を目の前に出してきた相手の顎を殴ってしまったんです。弱々の僕のパンチなんて相手に効いていない程度でしたが。。。次の休み時間トイレに連れてかれて、行くとジュースの缶を床にたたきつけて、何も言わずに出て行ってしまったんです。それ以降いじめられなくなりました。 いじめられている方は、リターン・マッチの彼のように自分で何とか使用とがんばる子、助けを求める子いると思います。前者の子に対して先生や親がしゃしゃり出てくると彼らもまたその子を追い詰める存在になってしまいます。後者の子に対しては難しいですよね。でも、一番やっちゃ行けないのは「がんばりなさい」的なアドバイスをすること。できないから助けを求めているのに、そんなこと言われたら、いじめを見て見ぬふりしているのと同じ。 大人の世界で、会社でいじめられて、会社に行きたくなくなったらどうしますか?選択肢の一つに転職考えますよね。でも、子供の世界では、「転校したい」という選択肢はだいたいタブーになってます。何でなんでしょう?ゲームの世界でも自分の強さよりも強い敵が出てきたら「逃げる」を選択するのに、子供のいじめの世界において「逃げる」という選択肢はないんです。レベルの違いすぎる敵に対して「逃げる」を選択しないと殺されちゃうように、いじめの世界だって逃げる選択肢がないから自殺してしまう子が出てきてしまう。 逃げることは良くないことのように思わず、選択肢の1つとして教示できる先生や親が増えれば自殺は少なくなるんじゃないでしょうか。でも、「潮合い(柳美里)」では、転校してきた初日にいじめられる少女の話もありますけど。。。 ところで、著者の7人はみんな立派な賞をもらっている方ばかりです。でも、ストーリーのある本は久々で、普段は報告書だの、論文だの、工学書だのそんなのばっかり読んでいるから、こういう本が読みにくい。まず言葉がわからない。「訝しい」とか・・・。表現も事実をきっちり述べる論文ばかりになれているので遠回しの文章や、倒置法を使われると読みにくい。 たまにはこういう日本語も読まないと、ダメなんだなぁと反省です。。。 この記事へのトラックバック |
この記事へのコメント