市民講座「次世代と考えるゲノム科学の未来」

名前は難しいですが、文部科学省の科学研究費(つまり僕ら一般市民の税金)を使っていろいろな研究をやっているのだから、その成果は一般市民のためにならなければならないし、その研究がどこまで進んでいるのかを専門家ではなく一般市民にも報告する義務があると言うことで、大学の教授らが、できるだけ難しい言葉を避けて一般市民にも最先端の研究を報告してくれるという講演会です。もちろん僕らの税金を使って研究しているのですから、言わば僕らは彼ら(大学の教授ら)のスポンサーです。ですから当然聞くのも無料です。
普段は白い巨塔のように偉そうな(?)教授らも、この時ばかりは、相手が一般人と言うことをわかってくれているので、場違いな質問をしても丁寧に答えてくれるんです。(腹の中では「けっ、私の研究は君らの頭では理解できないくらいのものなのだよ。」とバカにしているかもしれませんが。。。(笑) )
アメリカなんかでは、教授や博士らはスポンサーとなってくれる企業を自分で探して研究の費用を稼ぎます。だから専門家以外へのプレゼンもとてもうまいのですが、どうも日本の教授陣は学会などで難しく話すのはうまくても、一般人向けに話すのはヘタな人が多いんですよね。(これは僕の一般論であって、今回発表された人たちの話ではありません。)

さて、今回の講座はポスター発表と、口頭での発表がありまして、特にポスター発表では、「すべての生き物は細胞でできている」といったタイトルから、「牛肉を食べてもウシにならないわけ」といったことから、遺伝子、ゲノムって何?といった中学の理科、高校の生物レベルの話から始まり、1リットルの涙の骨髄小脳変性症、心臓病、脳動脈瘤を例に挙げ、そのなりやすさが遺伝子にあることを突き止めるまでの研究のやり方(主にDNAチップを例にして)を説明されていました。
また、最先端の研究成果ではなく、山梨大学の山縣先生、工学院大学の林先生ははゲノムのイメージを調査したことについての発表もされていました。ゲノム(Gene:遺伝子と、ome:全体を表す言葉を組み合わせた造語)は、1985年に初めて使われた言葉で、この意味を理解している人は15%にも満たない。一方、遺伝子やDNAの意味を理解している人は55%にもなります。ちなみに自分では理解していると思っていても、間違って理解している人も多いので、正しく理解している人は少ないです。
口頭での発表は4演目あり、自治医科大学の間野先生はDNAチップについて紹介されていました。DNAチップに関してはこのブログでも2回ほど紹介したことがありました。(キヤノンエキスポ2005、YOKOGAWA技術未来展)
簡単に言うと約25,000種類の遺伝子を網羅的に調べることができるツールです。詳しいことは省きますが、これを使ってガンになりやすい遺伝子なんかも発見するなど、遺伝子研究のスピードを飛躍的にあげたツールです。例えるならちょっと大げさかもしれませんが、CPUのクロックが100MHzのパソコンが一般的な時代に、1GHzのCPUのパソコンが登場したような感じです。
東京大学の辻先生は「ゲノム解析を基盤とする医療への応用」と題して主にSNP(一塩基多型)の話をされていました。SNPとは、遺伝子のAGCT配列が他の人とほとんど同じなんですが、時々違う部分があります。これを多型といいます。例えばお酒が飲める人と飲むとすぐに赤くなって倒れてしまう人とはDNA的には30億ある配列のたった1つの違いなんです。ゲノムがわかるということは、お酒が飲める人と飲めない人との違いがわかると言うことも含まれます。これがお酒なら飲む時に注意しようと言うだけで終わりますが、お酒じゃなくて薬だったらどうでしょうか?風邪ひいて病院に行ったら薬をもらいました。毎食後1錠ずつ飲んでください。と言われます。でも、お酒が強い人弱い人いるように、薬もちょっと飲むだけで聞いてしまう人、たくさん飲まなければ効かない人がいるはずです。もしかしたら前者のような人は1日3錠飲んだら効果がありすぎて逆に副作用が出てしまうかもしれません。ゲノムを調べれば最適な薬が最適な量投与することが可能になるのです。
それに、例えばガンになりやすい人、なりにくい人など、病気のなりやすさも診断することが可能になるかもしれません。自治医大の野間先生のところでは実際に急性白血病(だったかな?)を化学療法で治る可能性の高い人、骨髄移植をしないと治る可能性の低い人の判別をゲノムによってかなりの確率で判別できる手法もできていますし、辻先生のところの病院では保険適用外の自由診療の範囲でゲノム診療も行っているそうです。
同じく東京大学の堀之内先生は、放線菌という菌を使って薬などの有用物質を作ろうという研究を発表されていました。今までは植物しか作ることのできなかったイソフラボンを、植物の遺伝子を導入して放線菌に作らせたというもので、医薬品の候補物質を作ることも将来的にできるようになる問い発表でした。
また、今までは芳香族化合物(ベンゼン環(亀の甲羅とも言われる)を有する物質)を作る時は石油から作ることが多かったのですが、微生物から作ることも可能で、それが一般的になればクリーンな高分子(ポリマー)を作ることも可能になると言うことでした。
最後に東京大学の佐倉先生は「社会の中のゲノム科学」と題して、科学と社会の関係について発表されていました。乱暴ですが専門家の専門家による研究(専門家自治)が主流でしたがここ数十年は社会と専門家がコミュニケーションをとって研究の方向性を決めるようになってきた。しかし最近では科学の進歩が早すぎることと専門的になりすぎたこともあり、日常生活との解離が大きくなってきて、社会が科学を見なくなってしまった。その結果、科学=わからない→怖い→悪いものと言う図式にもなりつつある。科学者はもっと社会に受け入れられるようにする努力も必要になる。
※上記の書込は各発表者の要約ではなく、私の主観もかなり入ったものです。どちらかというと要約と言うよりも私の意見に近いかもしれません。
|
もし寿命を知ったら???右の写真は小学生のアンケート結果です。クリックすると拡大しますが、約700kbytesあります。「怖いから知りたくない」「いろいろ計画できるから知りたい」など意見があります。確かに知っていたら死ぬまでに身辺整理ができるし、お世話になった人にお礼も言える。でも知っていたら生きることに一生懸命にならないかも。もし30歳で死ぬと言われたら、きっと親のすねかじってもしくは親の遺産で暮らして、働かないかも。働かないなら一生件目勉強する必要がなくなるかも。なんて考えてしまいます。きっと年金制度も破綻してしまうだろうし。 こういう倫理的なことを社会で考えることが、佐倉先生は大事だとおっしゃりたかったのかな。 |
- 日本科学未来館
- クバプロ
- 遺伝子とゲノム―何が見えてくるか(書籍)
- イラストでみるやさしい先端バイオ(書籍)
- DNAから見た日本人(書籍)
- 白い巨塔(DVD)
- 1リットルの涙(DVD)
- ↑お買い物はAmazon
で。
- 送料無料キャンペーン※、新作DVD26%OFFキャンペーン※実施中の
楽天ブックスもどうぞ。
※各キャンペーンはこの記事掲載時に実施しているものです。実際は注文時に送料をご確認ください。
この記事へのコメント